11月22日(火)警察どこですか、梅田は、門司は、奈良はどこですかで、平野町交番に戻るママの人生ゲーム。
今日も朝から不穏な動き。
やみくもに早起きしたママリン、家の中をウロウロしている。
奥のテーブルの方で、ファスナーの開け閉めする音や、紙類のパリパリ音がする。
私の貴重品を勝手に自分のカバンの中に入れていたりするので、財布の入ったトートバッグは目につかない所に置いてあるのだが、ひょっとしら椅子の上なんかにポンと置いてあったのかもしれない。
お金を見つけたら、ポケットにさくっと入れてしまうのがママの習性、寝床から耳を澄ます。
次は玄関のドアをガチャガチャしてる、冷蔵庫を開ける音がする、シャ〜とおしっこをしてる音がする、ニャァ〜とジェフの鳴き声がする、またファスナーの音に、なにか紙をめくっているような音…。
まだ朝が早いので、ここはじっと我慢して寝たふりをする。
今起きてしまえば、デーのお迎えまでの2時間、ガチンコでママとおつきあいになってしまう。
でも気になる。あのファスナーの音は、いったい何を入れていたものなのか…。
もし、大事なものだったら、しばらく行方不明になってしまう。
う〜ん、どちらを優先しようかと悩んでいたら、ママが布団に戻ってきて寝はる。
じっと我慢の勝利であった。
で、そのまま起こすまで寝ていたママだが機嫌が悪く、ソファに並べた服の私のお着替え指示を無視して、パジャの上にフリーズを着て、その上に丸首セーターを重ね着し、胴体がピチピチになっている。
「そんなん肩が凝るよぉ。順番が違うって」と言っても、
「これでいいです。かまわんといてっ」。
セーターの裾からは、だぶだぶのボーダートレーナーが覗いているし、首元はひんまがったフリーズの襟がはみ出し、昨日よりけったいな格好である。
おまけに、3つのカバンに衣類を詰め込んで、「下で待ってます」と、出て行ってしまう。
すぐにそよ風さんのお迎えが来るが、あまりヘンなので、ラバコちゃんがカバンの中のジャケットを出して着せて、路上でお着替え。でも、ダルマ状態に変わりはない。
まっ、お風呂に入った後で、正しい順番で着せ替えてくれるだろう。
で、謎のファスナーの音は、そよ風さんの連絡ノート入れで、机にあったもいろいろな紙類が、ギャラリーチラシのA4の茶封筒の中に入れられていた。
自分では片付けをしたつもりなのだろう。
でも、いじられていた箇所はすぐ判明したので、難なきを得る。
ラッキーなことに、そよ風さんからの戻りが5時45分で、7時の閉店まで1時間強となる。
さらにラッキーなことに、お客さんから菊屋の最中を頂き、ママ夢中になる。
「もう1個食べていい?」「もう1個食べていい?」で、結局全部食べてしまう。
作家さんが在廊していたので、私は麻雀ゲームをしながらママにつきあい、閉店を迎えて店じまい。
さらに、「お腹いっぱいやから、もう寝るわ」とパジャマに着替えて寝仕度をしてくれるので、ラッキーとほくそ笑み、簡単に夕食の準備をする。
が、出て行きました。
平野町交番から電話があり、マンションを降りたところで、お巡りさんが連れてきてくれる。
しかし、どんどん、気分が、急降下。
自分はご飯はいらないと言っているのに、夕飯を作る私が気に入らないようだ。
「ママはお腹一杯でも、私はペコペコやの。自分が食べたいから作るの。ママはいらんかったら食べんでよろしいから…」
「そうやって恩に着せるのがイヤやねん。私はいらんって言っているのに…」
「だから、食べたくなかったら残したらいいやん。なんで、そう自分中心なんかなぁ」
「自分中心なんは、あんたやないのっ。勝手なことばかりしてぇ」。
スープなら食べられるだろうと、白菜入りの水餃子スープにして、厚揚げ焼き、サツマイモご飯の夕食を、イヤそうにつつくママリン。
昔はこういう時は、ムカっときていたが、今は平気のへっちゃらである。
日本酒を飲みながら、テレビの爆笑衝撃映像に一人で大笑いする。
どうせ、出て行くのである。
で、やっぱりと言うか、当然というか、「もうこんな家にはいたくありませんっ。出て行きます」と玄関のドアをガチャンと閉めて脱走。
すぐに平野町交番から電話があり迎えに行くが、今日のママはいつもと違う。
「私は、あなたの家には帰りません。私の家に帰ります。ですから、どうぞお帰りください。私のことは心配いりませんので、ちゃんと帰るとこがありますから…。どうぞ、お引き取りください」と冷静、かつ冷たい笑みを浮かべながらもの申すママリン。
お巡りさんに「どうしましょうか」とこっそり聞かれ、「追い出してください。後をつけますから…」。
さぁ、これが、久々の夜の大徘徊の幕開けになろうとは…誰が想像できたであろう。
コタツに入っていたので、靴下を脱いでいた素足に雪駄をひっかけて迎えに出た私、日本酒を飲んでいたおかげでポカポカなのが、ラッキーである。
今日は隠れて尾行するのはやめて、1メートルぐらい後ろを堂々とつけてみる。
東警察の方に向かい、何人もの人に「警察はどこですか?」と聞き、何回か警察の前を通り過ぎ、また人に聞き、やっとたどり着く。
警察のフロアで、「ついてこんといてっ! お巡りさん、この女を捕まえてください。私を付け狙っているんです。私のお金が目当ての、泥棒なんですっ」と怒鳴り散らす。
お巡りさんに「どうしましょうか」とこっそり聞かれ、「追い出してください。後をつけますから…」。
私服のお巡りさんが2人入ってきて、
「あれっ、おばあちゃん。どうしたん。帰らなあかんやん」
「私は、お宅のことは存じあげておりません」
「平野町交番でよく会うやん。制服着てないもんなぁ。でも、何回もしゃべってるよぉ」
「知りません。お宅、この子の友達ですかっ。そしたらグルなんですね。分かりました。あかん。ここはあかんわ」。
で、スタスタと出て行く。
「今日は悪魔ちゃんなもんで、すみません。いつもお世話になってます」とお礼を言って、東警察署を出る。
ケータイで時間を確認すると、8時17分。
8時前に出て行ったので、あと1時間ほど歩いてもらって、悪魔ちゃんモードを徘徊によるエネルギー消耗で鎮火させようと計画する。
マイナス×マイナスはプラスになるの法則である。
しかし、ずっと思っていたのだが、どうしてマイナス×マイナスはプラスになるのか、これが感覚としては理解できずにいる。
本町通りを西へ進み、ビルの花壇に座る込むママ。
ちょっと離れた花壇に私も座り、タバコ休憩する。
そろそろお疲れが見えてきたママリン、そろそろ落ちるか…。
で、またまた数人に「梅田はどっち方向ですか?」と道を聞き、地下鉄の駅を教えてもらうが、堺筋を北上する。
後ろで『三百六五日のマーチ』を唄って応援してあげるが、「うるさいっ」と怒鳴られる。
道修町の神農祭がやっていたので「こっちの道が楽しそうやよ」とアドバイスしたが「関係ないっ」と無視される。
ライオン橋で、どっちに行こうか途方に暮れたママ、「あんたが、先に歩き」。
「いや、ママが行きたい家があるんやろぉ。私は知らんから、ママの好きなように歩きよ」
「そんなんわからへんっ。梅田に行きたいのっ」
「そしたら、あの高いビルの向こうが梅田やわ。方向は合ってるわ」。
しかし、せっかく教えてあげたのに、中之島を南森町方面に歩いていくママ。
「あ〜、わかった。わかった。この国道を真っすぐ行ったらいいんや。前にかめちゃんと一緒に歩いて、なぁ〜んや、こんなとこに出て来るんやなって、すぐ近所に家があったわ」
「それは、よかったわ。でも、ここは大阪やよ」
「なに言うてるの。ここは小倉です。あ〜あ、お金があったらなぁ〜。タクシー乗ったら300円で行けるのになぁ。しかたない。歩きましょ」。
で、またまた数人に「門司はどっちの方向ですか?」と聞き、さすがにこれには皆さんポカンとされて、それは九州の門司のことですか、新大阪から新幹線に乗らなあかん、梅田から深夜バスに乗れば行ける、この近所にそんな地名はない、歩いたら600キロはあるから3ヶ月かかるかな、とりあえず、方向としてこっちです…、といろいろな答えを言われる。
私が後ろにいるので、なんとなく事情を察して、なんとなくその場をとりつくろってくれる。
みなさん、優しい。
しかしママは、「みんな勝手なことばかり言うから、わからんようになったやん。もぉホンマにどうしたらいいんやろぉ。あんた、切符、持ってるんやろぉ。返しなさい。それを払い戻ししてお金に換えるっ」。
どこでどうママの頭の中のストーリーが変わってきたのか、話の断片を整理してみると、大阪から電車に乗って小倉まで帰って来たので、歩いたら門司まで帰れると思っているようだ。
そして、ここは大阪と違う、門司のほん近所まで帰ってきていると言張るのだ。
菅原町の地名の看板を見て、「あ〜あ、わかった。もうちょっとや」と、大阪の街を門司の感覚で歩いているママ。
悪いが、絶対に目的地に着くことはない。
天神橋の近所でトイレに行きたいと言い出したので、公園の公衆トイレに案内する。
「あんた、ちょっとカバン、持ってて」と、頼まれる。
なんや、私を使うんか、で、ちょっと沈静化したかと思ったが…。
ここを大阪と理解してもらうために、天神橋北詰交番に寄ってみる。
ちょうど警邏のお巡りさんたちが5人ほど帰って来たところで、顔見知りのお巡りさんが、「おばあちゃん、こんなとこまで来てんの。遅いから、もう帰りや」。
「すみません。門司はどっちの方向でしょうか?」
「門司? ここは大阪やでぇ。寒いから、もう帰りっ」
「ほらほら、ここは大阪やん。お巡りさんが言うんんやから間違いないって」
「あんなけ歩いたのに、大阪ってことはない。門司に帰ってきたやん。電車乗ってきたやん。わかりました。こっちに行きます」。
で、松屋町を南へ歩き出す。いいコースである。
ふとケータイで時間を見たら10時45分ではないか。
ママのボケの迷走ぶりが面白くて、時間を忘れていたぞ。
というか、エクササイズ歩きで運動していたとはいえ、そろそろ素足が冷たくなってきた。
大林ビルの下で、「そろそろ帰ろうか。ここから家は近所やわ」と、うながしてみる。
「うっそ〜。やっと家に着いたんやなぁ。帰ろ。もう、しんどいわぁ」。
やった〜、落ちた。で、こっち、と先導する。
しかし、「なぁ〜、家って、あんたの家と違うのっ。あんたの家やったらイヤやっ」。
ガック〜ン。半落ちどころか、振り出しではないか。
「ママの家は奈良やの。奈良に帰るなら、難波に行かなあかんわ。この道を真っすぐやわ」
「あんたの言うことなんか信用できません」で、また人に道を聞く。
親切なサラリーマンが、「奈良でしたら、この辺には駅はありませんよ。近鉄電車ですから、う〜ん、ここからなら上本町か鶴橋か日本橋か、ですね。タクシーで行きはったらいいですわ」。
この話を立ち聞きしていた大林ビル客待ちのタクシーの運ちゃんが、「送ってあげるでぇ。乗りなさいよ」で、ドアを開けるもんで、その気になったママを引き止めるのに一悶着。
「お金ないですから…」に、「なぁ〜んや」。
で、私が歩く方向からクルリとUターンして、「あんたはそっちに行き。私はこっちに行きます」。
おいおい、おいっ!
やみくもに歩きながらも、なんやかんやで家まで10分圏内に入るという奇跡の生還を遂げたというのに、今から難波方面かいっ!
ここに来て、やっとムカっと来る。
「あんなぁ〜ママリン。もう11時前やから、近鉄電車乗るなら早く行かな終電に間に合わんよ。そんなダラダラ歩いていたら、間にあいませんよ。それより、家のカギは持ってるの?」
「持ってない。子供たちがいるやん」
「いません。空家です。ガスも電気も停めてるのに、途中でローソク買いや。家、真っ暗やで」
「なんで電気が停められてるんよ。あんたがしたんやな。家を盗ったんやなっ」
「いいえ、家はあります。隣が、IさんとHさんの、あの家です」
「あ〜、あの家か。あの家はいらんわ」。
ママは、奈良の家のご近所さんがあまり好きではない。
自分の家には帰りたいが、あの家には帰りたくないのだ。
松屋町を行ったり来たりして、ライフに入りかけてやめて、また人に「警察はどこですか」と聞いて、平野町交番を教えてもらってる。
で、超近所をウロウロして、平野町交番に戻って来たママ。
お巡りさんは不在であるが、振り出しに戻る。
そのショックのせいか、歩く気力を完全になくしたママ、私の後をトボトボついて来る。
「あ〜あ〜、あんなけ歩いたのに、また振り出しやないの。なんでいつもこうやのん。この辺にはあんたの家しかないんやなっ。あ〜あ、イヤやなぁ〜。あ〜あぁ、また舞い戻ってしまったやん。母さん、助けてっ。どうしたらいいんやろぉ」
「明日、明るいうちに帰ったらいいやん」
「当たり前や。明日は出て行きます。しかたない。今晩は泊めてもらうわ」。
で、11時20分に帰ってきました。
ママはバタンキューで寝てしまう。そらそうだろう。
私はコタツの入って、日本酒を飲み直す。
本日の徘徊は3時間強。
終わってしまえば、何か夢か幻のようでもある。
ママの頭の中は、『未来世紀ブラジル』のようになっていたのだろう。
実は、書ききれなかったが、街の人たちとのやりとりのライブが爆笑もんだったのだ。
こらこら、真面目に接してくれた親切な人に対して、これは不謹慎であった。
しかし、大阪人はやっぱりオモロい。世界に類をみないお笑いの街、大阪である。
延べ20人ほどの人に道を聞いていたママ、本日は路上パフォーマンスということでアサヨ劇場終演。
で、悪魔モードが燃え尽き、払拭されたのかどうか、明日のママの出方を見るしかない。
マイナス×マイナスはプラスの法則。実感させて欲しい。
本日の評価:評価不能
本日の家出:1回(平野町交番2回、東警察署、天神橋北詰交番)
徘徊時間:3時間30分
やみくもに早起きしたママリン、家の中をウロウロしている。
奥のテーブルの方で、ファスナーの開け閉めする音や、紙類のパリパリ音がする。
私の貴重品を勝手に自分のカバンの中に入れていたりするので、財布の入ったトートバッグは目につかない所に置いてあるのだが、ひょっとしら椅子の上なんかにポンと置いてあったのかもしれない。
お金を見つけたら、ポケットにさくっと入れてしまうのがママの習性、寝床から耳を澄ます。
次は玄関のドアをガチャガチャしてる、冷蔵庫を開ける音がする、シャ〜とおしっこをしてる音がする、ニャァ〜とジェフの鳴き声がする、またファスナーの音に、なにか紙をめくっているような音…。
まだ朝が早いので、ここはじっと我慢して寝たふりをする。
今起きてしまえば、デーのお迎えまでの2時間、ガチンコでママとおつきあいになってしまう。
でも気になる。あのファスナーの音は、いったい何を入れていたものなのか…。
もし、大事なものだったら、しばらく行方不明になってしまう。
う〜ん、どちらを優先しようかと悩んでいたら、ママが布団に戻ってきて寝はる。
じっと我慢の勝利であった。
で、そのまま起こすまで寝ていたママだが機嫌が悪く、ソファに並べた服の私のお着替え指示を無視して、パジャの上にフリーズを着て、その上に丸首セーターを重ね着し、胴体がピチピチになっている。
「そんなん肩が凝るよぉ。順番が違うって」と言っても、
「これでいいです。かまわんといてっ」。
セーターの裾からは、だぶだぶのボーダートレーナーが覗いているし、首元はひんまがったフリーズの襟がはみ出し、昨日よりけったいな格好である。
おまけに、3つのカバンに衣類を詰め込んで、「下で待ってます」と、出て行ってしまう。
すぐにそよ風さんのお迎えが来るが、あまりヘンなので、ラバコちゃんがカバンの中のジャケットを出して着せて、路上でお着替え。でも、ダルマ状態に変わりはない。
まっ、お風呂に入った後で、正しい順番で着せ替えてくれるだろう。
で、謎のファスナーの音は、そよ風さんの連絡ノート入れで、机にあったもいろいろな紙類が、ギャラリーチラシのA4の茶封筒の中に入れられていた。
自分では片付けをしたつもりなのだろう。
でも、いじられていた箇所はすぐ判明したので、難なきを得る。
ラッキーなことに、そよ風さんからの戻りが5時45分で、7時の閉店まで1時間強となる。
さらにラッキーなことに、お客さんから菊屋の最中を頂き、ママ夢中になる。
「もう1個食べていい?」「もう1個食べていい?」で、結局全部食べてしまう。
作家さんが在廊していたので、私は麻雀ゲームをしながらママにつきあい、閉店を迎えて店じまい。
さらに、「お腹いっぱいやから、もう寝るわ」とパジャマに着替えて寝仕度をしてくれるので、ラッキーとほくそ笑み、簡単に夕食の準備をする。
が、出て行きました。
平野町交番から電話があり、マンションを降りたところで、お巡りさんが連れてきてくれる。
しかし、どんどん、気分が、急降下。
自分はご飯はいらないと言っているのに、夕飯を作る私が気に入らないようだ。
「ママはお腹一杯でも、私はペコペコやの。自分が食べたいから作るの。ママはいらんかったら食べんでよろしいから…」
「そうやって恩に着せるのがイヤやねん。私はいらんって言っているのに…」
「だから、食べたくなかったら残したらいいやん。なんで、そう自分中心なんかなぁ」
「自分中心なんは、あんたやないのっ。勝手なことばかりしてぇ」。
スープなら食べられるだろうと、白菜入りの水餃子スープにして、厚揚げ焼き、サツマイモご飯の夕食を、イヤそうにつつくママリン。
昔はこういう時は、ムカっときていたが、今は平気のへっちゃらである。
日本酒を飲みながら、テレビの爆笑衝撃映像に一人で大笑いする。
どうせ、出て行くのである。
で、やっぱりと言うか、当然というか、「もうこんな家にはいたくありませんっ。出て行きます」と玄関のドアをガチャンと閉めて脱走。
すぐに平野町交番から電話があり迎えに行くが、今日のママはいつもと違う。
「私は、あなたの家には帰りません。私の家に帰ります。ですから、どうぞお帰りください。私のことは心配いりませんので、ちゃんと帰るとこがありますから…。どうぞ、お引き取りください」と冷静、かつ冷たい笑みを浮かべながらもの申すママリン。
お巡りさんに「どうしましょうか」とこっそり聞かれ、「追い出してください。後をつけますから…」。
さぁ、これが、久々の夜の大徘徊の幕開けになろうとは…誰が想像できたであろう。
コタツに入っていたので、靴下を脱いでいた素足に雪駄をひっかけて迎えに出た私、日本酒を飲んでいたおかげでポカポカなのが、ラッキーである。
今日は隠れて尾行するのはやめて、1メートルぐらい後ろを堂々とつけてみる。
東警察の方に向かい、何人もの人に「警察はどこですか?」と聞き、何回か警察の前を通り過ぎ、また人に聞き、やっとたどり着く。
警察のフロアで、「ついてこんといてっ! お巡りさん、この女を捕まえてください。私を付け狙っているんです。私のお金が目当ての、泥棒なんですっ」と怒鳴り散らす。
お巡りさんに「どうしましょうか」とこっそり聞かれ、「追い出してください。後をつけますから…」。
私服のお巡りさんが2人入ってきて、
「あれっ、おばあちゃん。どうしたん。帰らなあかんやん」
「私は、お宅のことは存じあげておりません」
「平野町交番でよく会うやん。制服着てないもんなぁ。でも、何回もしゃべってるよぉ」
「知りません。お宅、この子の友達ですかっ。そしたらグルなんですね。分かりました。あかん。ここはあかんわ」。
で、スタスタと出て行く。
「今日は悪魔ちゃんなもんで、すみません。いつもお世話になってます」とお礼を言って、東警察署を出る。
ケータイで時間を確認すると、8時17分。
8時前に出て行ったので、あと1時間ほど歩いてもらって、悪魔ちゃんモードを徘徊によるエネルギー消耗で鎮火させようと計画する。
マイナス×マイナスはプラスになるの法則である。
しかし、ずっと思っていたのだが、どうしてマイナス×マイナスはプラスになるのか、これが感覚としては理解できずにいる。
本町通りを西へ進み、ビルの花壇に座る込むママ。
ちょっと離れた花壇に私も座り、タバコ休憩する。
そろそろお疲れが見えてきたママリン、そろそろ落ちるか…。
で、またまた数人に「梅田はどっち方向ですか?」と道を聞き、地下鉄の駅を教えてもらうが、堺筋を北上する。
後ろで『三百六五日のマーチ』を唄って応援してあげるが、「うるさいっ」と怒鳴られる。
道修町の神農祭がやっていたので「こっちの道が楽しそうやよ」とアドバイスしたが「関係ないっ」と無視される。
ライオン橋で、どっちに行こうか途方に暮れたママ、「あんたが、先に歩き」。
「いや、ママが行きたい家があるんやろぉ。私は知らんから、ママの好きなように歩きよ」
「そんなんわからへんっ。梅田に行きたいのっ」
「そしたら、あの高いビルの向こうが梅田やわ。方向は合ってるわ」。
しかし、せっかく教えてあげたのに、中之島を南森町方面に歩いていくママ。
「あ〜、わかった。わかった。この国道を真っすぐ行ったらいいんや。前にかめちゃんと一緒に歩いて、なぁ〜んや、こんなとこに出て来るんやなって、すぐ近所に家があったわ」
「それは、よかったわ。でも、ここは大阪やよ」
「なに言うてるの。ここは小倉です。あ〜あ、お金があったらなぁ〜。タクシー乗ったら300円で行けるのになぁ。しかたない。歩きましょ」。
で、またまた数人に「門司はどっちの方向ですか?」と聞き、さすがにこれには皆さんポカンとされて、それは九州の門司のことですか、新大阪から新幹線に乗らなあかん、梅田から深夜バスに乗れば行ける、この近所にそんな地名はない、歩いたら600キロはあるから3ヶ月かかるかな、とりあえず、方向としてこっちです…、といろいろな答えを言われる。
私が後ろにいるので、なんとなく事情を察して、なんとなくその場をとりつくろってくれる。
みなさん、優しい。
しかしママは、「みんな勝手なことばかり言うから、わからんようになったやん。もぉホンマにどうしたらいいんやろぉ。あんた、切符、持ってるんやろぉ。返しなさい。それを払い戻ししてお金に換えるっ」。
どこでどうママの頭の中のストーリーが変わってきたのか、話の断片を整理してみると、大阪から電車に乗って小倉まで帰って来たので、歩いたら門司まで帰れると思っているようだ。
そして、ここは大阪と違う、門司のほん近所まで帰ってきていると言張るのだ。
菅原町の地名の看板を見て、「あ〜あ、わかった。もうちょっとや」と、大阪の街を門司の感覚で歩いているママ。
悪いが、絶対に目的地に着くことはない。
天神橋の近所でトイレに行きたいと言い出したので、公園の公衆トイレに案内する。
「あんた、ちょっとカバン、持ってて」と、頼まれる。
なんや、私を使うんか、で、ちょっと沈静化したかと思ったが…。
ここを大阪と理解してもらうために、天神橋北詰交番に寄ってみる。
ちょうど警邏のお巡りさんたちが5人ほど帰って来たところで、顔見知りのお巡りさんが、「おばあちゃん、こんなとこまで来てんの。遅いから、もう帰りや」。
「すみません。門司はどっちの方向でしょうか?」
「門司? ここは大阪やでぇ。寒いから、もう帰りっ」
「ほらほら、ここは大阪やん。お巡りさんが言うんんやから間違いないって」
「あんなけ歩いたのに、大阪ってことはない。門司に帰ってきたやん。電車乗ってきたやん。わかりました。こっちに行きます」。
で、松屋町を南へ歩き出す。いいコースである。
ふとケータイで時間を見たら10時45分ではないか。
ママのボケの迷走ぶりが面白くて、時間を忘れていたぞ。
というか、エクササイズ歩きで運動していたとはいえ、そろそろ素足が冷たくなってきた。
大林ビルの下で、「そろそろ帰ろうか。ここから家は近所やわ」と、うながしてみる。
「うっそ〜。やっと家に着いたんやなぁ。帰ろ。もう、しんどいわぁ」。
やった〜、落ちた。で、こっち、と先導する。
しかし、「なぁ〜、家って、あんたの家と違うのっ。あんたの家やったらイヤやっ」。
ガック〜ン。半落ちどころか、振り出しではないか。
「ママの家は奈良やの。奈良に帰るなら、難波に行かなあかんわ。この道を真っすぐやわ」
「あんたの言うことなんか信用できません」で、また人に道を聞く。
親切なサラリーマンが、「奈良でしたら、この辺には駅はありませんよ。近鉄電車ですから、う〜ん、ここからなら上本町か鶴橋か日本橋か、ですね。タクシーで行きはったらいいですわ」。
この話を立ち聞きしていた大林ビル客待ちのタクシーの運ちゃんが、「送ってあげるでぇ。乗りなさいよ」で、ドアを開けるもんで、その気になったママを引き止めるのに一悶着。
「お金ないですから…」に、「なぁ〜んや」。
で、私が歩く方向からクルリとUターンして、「あんたはそっちに行き。私はこっちに行きます」。
おいおい、おいっ!
やみくもに歩きながらも、なんやかんやで家まで10分圏内に入るという奇跡の生還を遂げたというのに、今から難波方面かいっ!
ここに来て、やっとムカっと来る。
「あんなぁ〜ママリン。もう11時前やから、近鉄電車乗るなら早く行かな終電に間に合わんよ。そんなダラダラ歩いていたら、間にあいませんよ。それより、家のカギは持ってるの?」
「持ってない。子供たちがいるやん」
「いません。空家です。ガスも電気も停めてるのに、途中でローソク買いや。家、真っ暗やで」
「なんで電気が停められてるんよ。あんたがしたんやな。家を盗ったんやなっ」
「いいえ、家はあります。隣が、IさんとHさんの、あの家です」
「あ〜、あの家か。あの家はいらんわ」。
ママは、奈良の家のご近所さんがあまり好きではない。
自分の家には帰りたいが、あの家には帰りたくないのだ。
松屋町を行ったり来たりして、ライフに入りかけてやめて、また人に「警察はどこですか」と聞いて、平野町交番を教えてもらってる。
で、超近所をウロウロして、平野町交番に戻って来たママ。
お巡りさんは不在であるが、振り出しに戻る。
そのショックのせいか、歩く気力を完全になくしたママ、私の後をトボトボついて来る。
「あ〜あ〜、あんなけ歩いたのに、また振り出しやないの。なんでいつもこうやのん。この辺にはあんたの家しかないんやなっ。あ〜あ、イヤやなぁ〜。あ〜あぁ、また舞い戻ってしまったやん。母さん、助けてっ。どうしたらいいんやろぉ」
「明日、明るいうちに帰ったらいいやん」
「当たり前や。明日は出て行きます。しかたない。今晩は泊めてもらうわ」。
で、11時20分に帰ってきました。
ママはバタンキューで寝てしまう。そらそうだろう。
私はコタツの入って、日本酒を飲み直す。
本日の徘徊は3時間強。
終わってしまえば、何か夢か幻のようでもある。
ママの頭の中は、『未来世紀ブラジル』のようになっていたのだろう。
実は、書ききれなかったが、街の人たちとのやりとりのライブが爆笑もんだったのだ。
こらこら、真面目に接してくれた親切な人に対して、これは不謹慎であった。
しかし、大阪人はやっぱりオモロい。世界に類をみないお笑いの街、大阪である。
延べ20人ほどの人に道を聞いていたママ、本日は路上パフォーマンスということでアサヨ劇場終演。
で、悪魔モードが燃え尽き、払拭されたのかどうか、明日のママの出方を見るしかない。
マイナス×マイナスはプラスの法則。実感させて欲しい。
本日の評価:評価不能
本日の家出:1回(平野町交番2回、東警察署、天神橋北詰交番)
徘徊時間:3時間30分
by asayosan
| 2011-11-22 16:53
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